なぜ日系企業で社内トラブルが起きるのか
6月号から3回に分けて、08年に管理者の方々に考えていただきたいテーマをお話しする予定でしたが、3回目となる今回は、ずっと前から取り上げたかったテーマをお届けします。この4年間、コンサルタントとして色々な企業様とお付合いして分かったことは、日系企業は意図的な違法行為が比較的少ないということ。ただし、知らないうちに社内作業の問題により、税金の納付漏れや、通関申告ミス、そのほかの社内不正が起きているということがあります。さらに社員の不正により、企業が犯罪に巻き込まれたことも少なくありません。皆様もよく「何でも中国人スタッフを信用して任せるな、リスクが高い」という言葉を耳にすると思います。これは確かに人の問題ですが、よく考えればやはり管理問題ではないかと思います。今回はこれについてお話しいたします。
トラブルを抱える企業に共通の問題
現地の経営権を全て中国人スタッフに一任するケースもあれば、人事、総務など外国人にとって非常に管理が難しい領域まで日本人が管理しているケースもあります。どちらが良いかは簡単にはいえませんが、完全な信頼関係で一任している企業と全く信用せずに何でも日本人が担当する企業に問題が比較的多いといえます。一任し過ぎると、経営が不透明になり、把握できないところでの担当者のミス、社内不正が生じてしまいます。反対に何でも日本人が、例えば中国語が話せるからと言って、通関手冊の作成まで担当するとなると、やはり予想通り大きなミスが起こります。現象は全く正反対のように思えますが、原因は同じです。それは、社内管理体制の問題であるといえるでしょう。
密輸犯罪の事例
事例を一つ申し上げます。07年に日本人管理者、中国人担当者が逮捕された電子部品の密輸事件が2、3件ありました。どうやら資材または生産管理部門の職員が、密輸先の貿易会社に協力したようです。それは香港現地法人側が仕入先の納品を受け、受取材料を中国へ送り、インボイスがあるため何も知らない通関担当者は、自社の通関手冊を使って輸入申告を行い、倉庫職員は貨物の荷降しや受付をするというものでした。受入材料はその職員の指示で、堂々と工場から運び出せますので、このようなカラクリで誰も気が付かないうちに、工場は大がかりな密輸犯罪に協力した結果となりました。犯罪者はたった一枚の発注書で関係者たちを動かしたことになります。なぜ受取材料の代金を支払わずに済んだのでしょう。それに、手冊輸入枠が不足して輸入できなくなるはずが、通関士の好意と独断で単損耗を増やしたり、数字を調整して輸入できるように対処していたようです。管理体制が確立されていない結果、社内不正が起きました。そのせいで中国人スタッフは信用できないという思いが生まれました。日本人や中国人に限らず、不正が生まれる土壌があれば、その木はどんどん大きくなるものだと私は思っています。
トラブルを抱える企業の特徴
やはり共通の特徴があります。例えば、①日本人責任者の経営方針を各部署の管理者が理解していない、②日本人とローカルスタッフのコミュニケーションが上手くいかない、③社内の責任者と部長、部長と担当者、担当者と作業者の間で目標を共有していない、④その結果、部署間の意識統一が全く取れていない、などです。そうした社員の顔を見ると、「やる気がなく、仕事が楽しくない」ように見えます。当然、このような環境では、仮に管理プロセスがあったとしても標準通りに機能するわけがありません。
私の体験から
私も経営者になって未だ5年未満です。経営は一筋縄ではいかないことを痛感しています。創業以来、大変な苦労を沢山しておりまして、いまだ当社にも色々な経営課題が残っています。おかげ様で、様々な企業リーダーの方々とのお付き合いを通じて、経営について多くを教わりました。大変恐縮ながら、ここで私の体験を申し上げますと、経営は甘いものではありません。経営者も社員と同じ立場で社員たちの悩みを聞くべきです。そして優しい心を持って、人間の弱さや惰性を克服させながら、良い点を発揮させることです。それと同時に厳しい視点を持ち、完璧な業務プロセスとその
営を監視する体制の構築が大切になります。それができれば、信頼関係も醸成され、仕事が楽しくなることでしょう。