C社は、深圳沙井にある電子部品の製造会社です。C社の社長はアジア各国への出張が多く不在がちなので、会社の管理は社内各部署の日本人管理者に任せていました。 一年ほど前、C社は特に問題が表面化していた訳ではありませんでしたが、C社社長が経営リスクを低減するために、専門家のアドバイスを受け、潜在リスクの芽を少しでも摘み取っておきたいと考えて、弊社のリスクマネジメント調査サービス(通関・物流・財務・取引先信用などの調査を含む)をご利用頂きました。 すると、昨年4月から8月にかけ、資材課長を含む2名の社員が、04年から架空取引を行っており、総額800万元近くを着服していた事実が明らかになりました。
資材課長自らが架空取引
弊社がリスクマネジメント調査に含まれた仕入先信用調査を行った際、設立登記のない、現実には全く存在しない架空の仕入先を発見しました。それを手がかりに、購買担当の資材課および各担当者を徹底調査した結果、この架空取引には中国現地での部品調達を担当している資材課が関与しており、その架空取引額は800万元に上ったことが分かりました。 架空取引に関与した資材課課長は、自分の権限を利用して、架空の仕入先と取引することを決め、部下に支払い依頼書を作成させて自ら許認可し、まるで本当にその架空の仕入先から材料を購入したように見せかけていました。 このような問題は、現実に多くの会社に内在しています。そのような会社は、社内の組織が機能しておらず、財務担当者のチェックが不十分であり、伝票および許認可印があれば自動的に支払いを行っています。その取引の真実性を全く確認しようともしません。 各部門の職務権限は不透明で、社員は自分とは無関係のことだからと考え、チェック機能も働かず、内部管理体制は名ばかりの存在になっています。
対策と今後の取り組み
C社はこの架空取引をきっかけに職員のシフト制勤務体制を導入、かつ社内組織機能を見直し、各部署の権限がしっかり発揮できるように改革を進めました。 そして今回の架空取引事件を教訓に、今年から第三者の管理部門が全ての取引についてチェックする体制を整備しました。 資材購入部門は、リベートの受取り、裏取引、その他の不正が最も発生しやすい部署です。不健全な就業環境においては、仕入担当者のモラルや会社への忠誠心は低くなり、責任感も欠如します。また仕入先からリベートなどを受け取ると、粗悪品が送られたり、仕入単価が高くなる可能性があります。 リベートの受取り、裏取引などに関心を払って頂ければ、より良質な商品を作ることにつながりますし、生産コストダウンも可能です。この機会に仕入管理にも留意されることを強くお勧めいたします。
じつはこういった問題が起こりやすいのは、中小企業なんです。資材購入などを現地スタッフに任しているケースが多いからです。にもかかわらず、社内外に監視するルールが制度化されていないため、会社側が「怪しい」と気づいても情報がとれないんですね。 そういうときは第三者の立場で、不正の有無を確認するほうがベターです。上司から詰問された当事者が素直に認める可能性は低いうえに、たとえ不正に加担していなくても、人間関係を気にして自分の口から報告することをためらう例が少なくありません。