独資化に際しての資産移管の外部手続き
2011年4月までに、東莞市だけで約4500社の来料加工廠が独資に切り替えました。これほど数多くの企業が独資化をしていますが、独資化の全プロセスを順序よく・低リスクに・税金を最小限に抑えて実施された企業は少数です。特に、来料から独資へ資産を問題なく円滑に移管された企業はごく少ないと感じています。
資産移管のなかで棚卸資産の移管については、税関は来料加工廠から独資へそのまま繰り越しすることを認めていますし、外貨決済でこれらの材料代金を委託先へ支払うこともできるようになりました。手続き関係は簡単に見えますが、社内の処理をどう処理すべきかが分からない方が多いと思われます。
仕掛品と製品在庫移管に工夫が必要
税関は材料の状態での繰り越しを認めていますが、仕掛品と製品在庫の移管についての規定は定めていません。企業には仕掛品も製品在庫も当然存在しているので、ある時点をもって、一括で独資へ移管しようとするなら、仕掛品と製品の移管について自社で解決案を策定することになります。
例を挙げて説明しますと、仮に独資の生産開始を8月に予定している場合、7月に工場全体の棚卸を実施します。棚卸の対象には通常の材料、仕掛品、製品だけではなく、不良品、スクラップ、デッド在庫、外注品、預託品なども入れるべきです。
この仕掛品と製品の移管については二つの方法があります。
(方法一)
もし、仕掛品の加工度が低くて、加工費の占める割合が低い場合、仕掛品と材料を一括で独資へ移管とし、完成品を来料で出荷させます。仕掛品に付加された加工費は香港で処理します。
(方法二)
逆に、加工費が高い場合、材料だけを独資へ移管し、仕掛品と完成品を引き続き来料で出荷させます。いずれの方法にしても、生産計画を事前に調整して、7月棚卸時にはライン上の仕掛品を最小限に抑えることが非常に重要です。
処理が簡単な方法一とハードルが高い方法二
それぞれのメリットとデメリットを解説しますと、方法一では来料と独資は8月1日をもって生産は完全に独資に移管されるため、きれいに切り分けられます。つまり、来料はこの時点から在庫がなくなり、すべて独資の在庫になります。
処理が簡単なだけではなく、通関リスクも最小限に抑えられ、なおかつ人員の移管も費用の計上も8月1日から独資に移されるので、社内の管理はすっきりとします。この点が大きなメリットとして挙げられます。ただし、仕掛品の加工費を香港で処理すると、香港の損益と独資の原価計算に影響するという問題も発生します。
方法二は、来料と独資の並存生産期間を設けることにより、
①別在庫と別帳簿の管理が求められ、関係伝票も分ける必要がある
②設備(金型、治具、工具等)の区分、並存期間において、独資の専用設備、来料の専用設備を明確に区分すべき
③従業員の区分、独資の生産に必要な人員を労務局へ登記
④費用の配賦、水道・電気代、消耗品購入などを区分し、来料と独資の注文も分けて、領収書の発行も分ける必要がある
⑤仕入先と客先への確認は、同じ客先で同時に来料の納品と独資の納品が存在する可能性があり、得意先が処理できるかどうかも事前確認が必要
と、さまざまな処理が必要となってきます。
この方法二は、社内管理、通関管理等のレベルが高く要求されますので、どこかに不備がある場合、コンプライアンス・リスクがきわめて高くなります。
まとめ
弊社としては、特に通関リスクの面から方法一を提案しますが、逆に方法二を選択する会社は事前に関連部署(生産管理、営業、購買、倉庫、通関、会計、総務・人事)が連携して十分な検討を行ない、万全な計画を早期に策定し、なおかつ並存期間をできるかぎり縮小するよう提案いたします。