深圳で成形工場を経営しているA社長はかつて、通関員を採用する時、経験者が良いか、素人が良いか迷った事がありました。
経験者を採用すれば、実務に詳しいですが、通関業界の習慣がその方の常識になり、個人的な意識改革が難しいと思われます。逆に素人は、ゼロからの教育が可能ですが、経験不足による大きな失敗が怖いものです。結果、A社長は「通関員資格は持っているが、まだ経験のない女性」を採用することにしました。
彼女は、大学時代に通関員資格試験に合格しましたが、通関の仕事は全くの素人です。「教育さえすればよい」「将来性が高い」とA社長は判断したのです。ところが、数ヶ月後、ある税関係員が工場を訪れ、その女性通関員が密輸事件を引き起こしたと言うのです。税関係員の説明によれば、彼女は会社の電子通関時に、自社の電子キーを他人に貸し出し、自社名義で樹脂材料を免税輸入、他社へ転売したとのことでした。
他と異なる輸出入システム
しかしながら、いったい何故、自社の電子キーを他人に貸すことで密輸が成り立つのでしょうか。まず、深圳の輸出入システムが他地域と異なっていることが挙げられます。他地域では、輸出入申告を行う場合、通関書類原本、通関手冊等の書類を税関の指定の場所へ持参し、書類の審査、貨物の検査等を経てから、通関申告を行うことが可能になります。
深圳では電子申告となっており、電子ポート(電子口岸)上に会社の法人代表キーと通関操作員キーをパソコンに設定し、パスワードさえ入力すれば、輸出入申告が可能になります。すなわち、会社の判子、通関手冊の原文、通関書類原文等を税関へ提出しなくても社内のパソコンを操作して輸出入申告が可能だということです。その操作は、社内でも、通関業者のところでも行うことが可能です。通関業者のところで申告を行えば、法人代表キーが必要でなく、通関操作員キーだけで申告可能です。代わりに通関業者のキーが必要とな
ります。普段は社内で輸出入申告を行っていた彼女は、会社のパソコンが一時的に故障した時、通関業者のところで申告を行いました。税関の調査によれば、彼女が通関操作員キーを通関業者のところへ持参した時、ある人間が彼女の無知を利用したのです。甘い誘惑で欺かれた彼女は五千元を貰う代わりに、そのキーを通関業者に貸し出すことにしました。貸し出されたキーが利用された脱税(他社の樹脂材料を輸入した)額は、合計十数万元にも及んだそうです。
何よりも大切な通関操作員キーの管理
社会常識の欠けた(通関操作員キーが自社の「代表」であることを十分認識していなかった)女性通関員による通関申告業務は、非常に危険です。もしかしたら、通関操作員キーを少し貸すだけで五千元貰えることは「大変得だ」と思ったのかもしれません。また、A社長も通関に詳しくなく、通関員の採用および教育を前任通関員に任せ、本事件が起こるまで通関上に何の問題もなくうまく進んでいると思っていました。
今回の事件、深圳での通関業務では、電子ポートにおける法人代表キー・通関操作員キーをきちんと管理することが大事だということがお分かりいただけたでしょうか。